進捗報告、商品説明、質疑応答、仕事の依頼、情報の共有…
私たちは、ビジネスの様々なシーンで何らかの説明をする機会に頻繁に遭遇する。
にもかかわらず、相手にわかりやすい説明ができないことに悩む社会人が多い。
わかりやすい説明ができないというのは、社会人にとって致命的だ。
説明がわかりにくいと、誤解を招いて仕事を停滞させたり、相手を混乱させて信用と評価を落としたりする。
一般的に、この悲劇の原因を口下手な性格やコミュ力の欠如に求めがちだ。
しかし本当の原因は、わかりやすく説明するコツを知らないだけである。
それでは、説明が苦手な人のために、相手にわかりやすく伝えるコツを解説しよう。
説明の途中で迷子になる
本当は説明が下手な人などいない。
話題があいさつレベルの簡単な確認程度のものであれば、誰もが驚くほど少ない単語で正確に意思疎通できている。
ところが、話題が少々複雑なものになった途端、論理が破綻する人がいる。
そして、以下のような症状が現れる。
- わかりやすく説明しようとして、話をさらに複雑にする。
- 説明の途中で自分でも訳が分からなくなる。
- 補足説明から話の本線に戻れなくなる。
- もともと何を話していたのか忘れる。
これでは相手を困惑させてしまう。
その代償は大きく、その人の評価を下げるだけでなく、お互いの誤解からミスを発生して仕事が停滞したり、せっかくの交渉の機会を台無しにしたりする。
私たちには、相手に正確に情報を伝える技術が必要だ。
そこで重要なのは、相手のニーズに応えること。
どんなに熱意を込めても、声を大きくしても、独りよがりな説明である限り相手に理解されることはないのである。
なぜ、うまく説明ができないのか
説明の内容は、相手のニーズに応えるものでなければならない。
しかし、それが相手のニーズを無視した独りよがりなものになると、途端に話が分かりにくくなる。
説明をわかりにくくする3つの理由
説明が独りよがりになってしまう理由は3つある。
1つ目は、印象の押し付けである。
例えば、悪化した、できそう、余裕がある、とだけ伝えられても、よほど情報を共有できている関係でない限り、聞き手としては理解しにくい。
2つ目は、無知による話題回避である。
例えば、理解しておくべきことを理解できていなかったり、そもそも知らされなかったりすると、説明の途中で話題がその部分に差しかかった時にその部分だけ奇妙な空白が生じる。
その結果、説明がスタートからいきなり的外れだったり、重要な項目なのにもかかわらず説明を省略する、ということが起きる。
3つ目は、防衛による話題回避である。
例えば、進捗の遅れやミスなどを指摘されることが予測される場合、説明の途中からその話題に触れないように話が逸れていく。
その結果、言い訳ばかりが並んだり、あてのない話をダラダラと続けたり、いきなり別の話題に飛んだりする。
説明をわかりやすくする方法
説明をわかりにくくする3つの理由のうち、1つ目の対策は困難ではない。
印象論になりがちな説明の内容を具体化して伝えるテクニックをマスターすればいい。詳しくは次章で解説する。
一方、厄介なのは、2つ目と3つ目だ。
なぜなら、無意識に行われる回避行動を制御することはほぼ不可能だからだ。
そこで重要なのは、理論武装。
つまり、聞かれて困ることに対して、あらかじめうまい返し方を準備しておくのである。
そうすれば、弱点を指摘されることに対する恐怖心が緩和され、無意識に特定の話題を回避するのを防ぐことができる。
その結果、説明の内容は理路整然としたものになり、誰に対してもわかりやすいものになる。
要するに、うまく説明できない原因は、無知と恐怖心。
これさえ除去できれば、説明に過不足が生じることは無くなるのである。
わかりやすい説明&資料作成のコツ
説明をわかりやすくするためには、現場での小細工よりも事前の準備が重要である。
つまり、説明のわかりやすさは、説明する前にすでに決まっているのである。
わかりやすい表現に変えるテクニック
あいまいな表現は、イメージがつかみにくく説明の内容を理解しにくい。
さらに、誤解を招く可能性もあり、ビジネスに適さない。
仕事の話をするときは、具体的な表現を使うようにしよう。
具体的な表現は、状況をイメージしやすく、その先の展開も読みやすい。
この恩恵により、聞き手は直観的に話を理解しやすくなるのである。
それでは、あいまいな表現を具体的な表現に変えるテクニックを紹介しよう。
・数値で示す
説明をするときは、結果を印象で伝えるよりも数値で示した方が聞き手に優しい。
例えば、「うまくいった」「ダメだった」と伝えるよりも「前回に比べて15%の向上を実現した」「前年同月比マイナス8%」のように結果に数字を付け加えて説明した方が、情報量が多いために、ずっと聞き手に伝わりやすくなる。
たとえ、報告がとっさの質問に対する返答だとしても、その場で暗算し大まかな数値を示すべきである。
とにかく数値化することに意味がある。職場ではこうした配慮が大切である。
・基準と比較する
数値で示すことと同様に、基準を示すことも有効である。
例えば、「目標まであと50工程」「上限規格に対して5%のマージンがある」のように説明に基準を付け加えると、状況を理解しやすくなるだけでなく、聞き手はその後の取るべきアクションまでイメージしやすくなる。
後述するが、相手にはこれからどのような話をするかを予感させることがとても有効で、基準を示すことは自動的にその役割をも果たすことができるのである。
・視覚に訴える
説明で最も有効なのは、視覚で伝えることだ。
図や表、推移を表すグラフ、簡単な絵、現場の写真などを使って説明すれば、むしろ理解できない方がおかしい。
最悪、その場に何もツールが無ければ、身振り手振りでも構わない。百聞は一見に如かず、である。
・根拠を示す
結論を述べるときは、根拠を添えると聞き手は安心する。
例えば、「難しい」「できそう」「大丈夫だと思います」などのような表現で終わるのではなく、「過去に○○の前例があります」「先方からOKをもらってます」「有識者を紹介してもらいました」などと根拠を添えれば、相手はその結論を納得しやすい。
もちろん、「私の勘です。」では説得力に欠ける。根拠にはある程度信用があるものを選ぼう。
・結論から話す
ビジネスシーンで求められるのは結果である。
まず結果を示し、そこから導き出される結論を述べること。議論はそこから始まるのである。
相手が知りたいのは、あなたの苦労話でも自慢話でも言い訳でもない。
なお、結論を先に述べておくと、その後の説明が多少、長く複雑なものになったとしても、聞き手は受け入れやすくなる。理由は後述する。
・事前に通告する
人はこの先何が起きるのかを知ると、受け入れ態勢ができる。受け入れ態勢ができると、その後の作業に集中しやすくなる。
そこで、この習性を利用し、説明を始める前に目標や方針をひと言付け加えよう。
例えば、「この会議の目的は○○を明らかにすることです。」「連絡事項が3点あります。」のように事前に通知しておく。
そうすれば、聞き手はそれを聞こうというモードに切り替わり、その後の説明の内容を理解するために集中力を発揮する。
もちろん、事前通広告の内容とその後の説明の内容に矛盾やズレがあってはならない。
不明点を無くす
説明の途中で論理が破綻するのは、よく理解できていない話題を避けようとするからである。
そこで、業務上わからないこと、知らないことがあれば、普段からよく勉強しておこう。
話し手と聞き手の間には、完璧な情報の共有ができていることが望ましい。
業務上、知らない話題が出てきたり、新しい仕事を任されたりしたときは、その場で質問するなり調べるなりして、積極的に知識を吸収しよう。
この心がけが、お互いのスムーズなコミュニケーションを可能にするのである。
隠さない
聞かれて困ることを隠そうとすると、論理が破綻して聞き手を混乱させる。
しかし、仕事をする限り、遅れやミスは必ず発生する。
突発的な事故、想定外の抵抗、失敗の連続、うっかりミス、私たちの体調も常に万全ではない。
重要なのは、これらを発生させない事よりもそのあとのリカバリー能力だ。
そこで、もし遅れやミスが発生しても、それ隠すのではなくむしろ積極的に正々堂々と報告しよう。
もちろん、リカバリー対応中という弁明を添えて、である。
弁明の内容は、対応中、検討中、確認中、他を優先中など、何でもいい。
とにかく、リカバリーが同時並行で進んでいることをアピールできればそれでいい。そのまま放置が一番いけない。
仕事は常に順調であることが望ましいが、そんなことはあり得ない。
だから、順調でないこと、万全でないことを恐れる必要はない。
本当に恐れるべきなのは、それを隠してさらに大きな問題に発展してしまうことなのである。
まとめ
私たちが話す内容には、自分自身の心理が投影されている。
話したいことを話し、話したくない話題に発展しないように巧みに流れをコントロールしている。
これはビジネスシーンでも同じである。
私たちは自分の身を脅かす事態を避けるため、隠しておきたい話題を避けようとする。
その結果、説明の内容に過不足が生じ、聞き手は混乱することになる。
説明は、相手のニーズに応えるものでなければならない。
そのためには、わかりにくくなりがちな表現をわかりやすくする努力が重要である。
説明がうまくできないのは、口下手な性格でも言語能力が欠けているからでもない。
説明をわかりやすくする正しい努力を知らないだけなのである。
最後に
以上、わかりやすい説明&資料作成のコツをご紹介しました。
しかし、どんなに努力を尽くしても、状況に改善がみられない場合があるかもしれません。
それはあなたの努力が足りないのではなく、そもそも仕事との相性が良くない可能性があります。
私たちには個性があります。個人によって得意分野と不得意分野が異なります。
その個性と仕事に求められるスキルがマッチしていなければ、努力が成果につながりにくいのは当然起こりえることなのです。
かつての日本では、努力さえしていれば誰でも評価されていました。
その理由は、パソコンや通信手段が今ほど普及、高機能化していない時代では、単純な作業が労働に多く含まれていたからです。
しかし、現代は単純な作業はもちろん、多少の複雑な作業ならパソコンが処理してくれます。
人間はそれ以外の複雑な仕事を処理しなければならず、かつてないほど仕事と正面から向き合わざるを得なくなったのです。
もし、今の仕事と自分の個性とのマッチングに疑問を感じるなら、下記の記事を参考にしてみてください。
何か、新しい気づきに出会えるかもしれません。
努力は全てを可能にするわけではありません。
努力が報われるのは、運よく自分にマッチした環境を手に入れた人だけです。
あらゆる努力を尽くし、それでも仕事を効率的にこなすことが困難なのであれば、仕事の適性を疑うこともあっていいのではないでしょうか。